知っておきたい、トランプ大統領が多発する「大統領令」とは??【えいご人の国際政治】

知っておきたい、トランプ大統領が多発する「大統領令」とは??【えいご人の国際政治】
1月 31, 2017 admin

知っておきたい、トランプ大統領が多発する「大統領令」とは??【えいご人の国際政治】

トランプ大統領が連発する大統領令は絶対なのか?

今回は日本のメディアでも再三取り上げられているトランプ大統領が連発している大統領令について解説します。

一体大統領令とはどのようなものなのでしょうか。大統領令は英語ではExecutive Orderといいます。

まずExecutiveという単語ですが、もっとも一般的に使用されるのは、日本流にいえば会社などの上級管理職、まさにエクゼクティブを意味する言葉ですね。

executiveとは語源的には「物事を実行してゆくこと」を意味します。動詞はexecute。これは「処置する」とか、「対処する」、あるいは刑などを「執行する」という意味で使われます。

では、Executive Orderといえばどういう意味になるでしょうか。政治の世界で物事を実行してゆく場所は行政機関です。つまり、この言葉は「行政執行命令」ということになります。大統領は行政の長ですから、大統領が行政上の戦略を決定して行政機関に命令をすることがExecutive Orderなのです。

日系人差別も大統領令から始まった

日系人の移住を告知する看板(1942年カリフォルニア)

では、トランプ大統領の発令するExecutive Orderは、絶対的な命令なのでしょうか。もちろん、大統領の命令ですから、それは大きな影響のある行為です。日本の一部の報道機関が、大統領令といっても、議会などの承認もいるので、それを実施するには色々な手続きが必要だと解説しています。理論的にはその論説は正しくても、現実は違います。Executive Orderは、時には違法ではないかと思われるグレイな部分でも緊急時の特別な措置であれば、かなりのことができる執行命令なのです。

代表的な例がExecutive Order 9066です。これは、第二次世界大戦のときに、日本からの戦闘行為を警戒し、アメリカに住む日系人の強制収容を決定した命令です。これによって日系人は強制収容所に連行され、経済的にも精神的にも大きな損害を被りました。

最終的に、この命令は違法であったと、アメリカ政府は被害者に正式に謝罪し、補償を行いましたが、それは戦争が終わって43年も経過してからのことでした。

今回イラクなどの特定の中東諸国からの入国や難民の受け入れを厳しく制限するExecutive Orderが布告され、実行に移されました。これは、Executive Order 9066を思い出させる命令です。日系人のケースは、戦争時の防衛上のニーズによるものということで正当化されました。アメリカが人種差別を撤廃し、民主主義国であるとしても、戦争や戦争に準じる緊急時には、このようなExecutive Orderが正当化されるのです。

収容所内で学校へ行く日系人少女(1943年)

Executive Orderはどのように監視されるのか?!

民主主義国家の基本である三権分立の制度によってチェックされることになります。行政 Executive Power の権力の行使が合法かどうかは、立法機関 Legislative Power が常に監視する事柄です。立法権が法律によってその行為を規制できるわけです。また、司法権 Judicial Power が大統領の行為の違憲性などを審査することも可能です。

例えば、海外と条約を締結するとき、その交渉を行うのは Executive Power、すなわち行政機関ですが、それを国内法として批准(承認すること)するのは議会の役割です。第一次世界大戦の悲惨な経験から国際連盟が設立されたとき、その立役者となったのはアメリカのウイルソン大統領でした。しかし、国際連盟への加盟の条約が議会で否決され、アメリカが連盟に加わらなかった事例は有名です。

つまり、三権分立の制度の中で、それぞれの機関が単独で行動しないための相互監視機能 The balance of power が働いているのです。

実は、アメリカの大統領はこの The balance of power の原則に従って、司法権に対して、連邦最高裁判所の判事の任命権を持っています。最高裁判事は終身で、欠員がでれば大統領が任命できるというわけです。

また、大統領は立法行為に対する拒否権 veto も有しています。vetoを行使したときは、議会はそれに対抗できますが、法律を成立させるには議会の3分の2以上の賛成が必要となるのです。

こうしてみると、いかに立法権と司法権が行政権に対して監視を強めることができるとしても、大統領令 Executive Order を覆すためのハードルは決して低くはないことがわかってきます。

Executive Orderも含め、大統領が違法行為によって権力を行使すれば、それは司法審査の上で弾劾 impeachment の対象になるでしょう。しかし、これにも相当の手続きが必要です。

過去に大統領が弾劾されかけた事例がないわけではありませんが、実際に大統領が罷免されたケースはありません。ニクソン大統領がウォーターゲイト事件で選挙時の盗聴行為をおこなったと司法委員会が糾弾し、その圧力の中で大統領自らが辞任したことが、唯一弾劾による罷免に近い事例としてあげられている程度です。

ですから、日本政府、メディア、そして一般の人々も含め、アメリカのExecutive Orderは直接間接に日本の経済活動にまで影響を与えかねない重要な命令であるということを、ここであえて確認しておきたいと思うのです。


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