古代ローマ帝国の衰亡とアメリカの今【えいご人の世界史】

古代ローマ帝国の衰亡とアメリカの今【えいご人の世界史】
1月 29, 2017 admin

古代ローマ帝国の衰亡とアメリカの今【えいご人の世界史】

えいご人の世界史:山久瀬洋二

世界史の教科書をただ暗記していても、何にもならないですね。英語を使って楽しく会話し、話題をもち、人とわかり合う材料にすれば、それは活きてきます。今日は、ローマ帝国と、今のアメリカとの話題を2,000年の時を越えて結びつけてみます。

Pax RomanaとPax Americana

今、アメリカでおきている問題を古代ローマ帝国  The Roman Empire を例に分析してみます。

ちょうどキリストが十字架にかけられた頃から300年以上、ローマ帝国は地中海世界を支配していました。支配した地域は地中海のみならず、北は現在のイギリスから西はトルコや中東にまで至っていました。この巨大な帝国のおかげで、商業が栄え、ローマの文化は支配地域に深く浸透していきました。ローマ帝国がもたらした平和と繁栄をパクス(パックスともいう)・ロマーナ Pax Romana と呼んでいます。

今、世界中にスターバックスとマクドナルドがあるように、当時ローマ帝国に支配された都市には、どこにいっても帝国の首都ローマと同じような施設がありました。剣奴と呼ばれた奴隷たちの格闘を見物するための闘技場、公共浴場、神殿など、すべてがローマを模倣した都市になりました。

 

ローマ帝国の支配した都市には同じようなコロッセオが建てられた

それから2,000年経った現在、世界の多くの人々は超大国になったアメリカの元での平和と繁栄を享受してきました。日米安保条約 the Japan-U.S. Security Treaty のもとで70年以上、平和に守られながら経済を伸張させた日本も例外ではありません。この平和をパクス・アメリカーナ Pax Americana と呼んでいます。

しかし、トランプ政権になって、多くの人がパクス・アメリカーナ Pax Americana の息切れを感じています。彼が “America First”を明言し、世界の平和の維持よりもアメリカの利益が大切と強調しているからです。

ローマは自らの重みで衰亡した。アメリカは大丈夫か?

ここで再びローマ帝国の歴史を振り返ります。

実はローマは、自らの繁栄の重みに耐えられなくなり、衰亡したのです。

ローマ帝国が繁栄を謳歌し領土が拡大すると、それを維持するために、国境や、同盟していた部族を守るために、軍備に膨大な予算をつぎ込まなければならなくなりました。そのためには、ローマが占領した地域の人々にも市民権を与え、軍務にもつかせます。

肥大化した国境維持の経費は、ローマの経済を傾けます。ローマの経済が傾けば、それは逆に辺境の維持のための予算や装備にも影響を与えます。辺境での平和が脅かされ、ますますローマは軍備に自らの資産をつぎ込まなければならなくなったのです。

市民生活でいうならば、経済的混乱は貧富の差を生み、いわゆる格差社会が都市を蝕みます。支配地で新たに市民になった者と、昔からの市民との確執も表面化します。

五賢帝時代と呼ばれる、ローマ帝国が最盛期を迎えた紀元1世紀末から2世紀に至る時代の後、ローマはこうした経済難に見舞われながら200年かけて衰退し、その後さらに 100年足らずで、東西に分裂したローマ帝国のうち西ローマ帝国の滅亡へとつながるのです。

当時、堤防が決壊したかのように、北や東からローマの富を求めて人々がなだれ込んできました。彼らは、後のヨーロッパ世界の主として、各地に国家を造ります。そしてローマがギリシャに習ったように、彼らはローマの権威を利用して自らの領地を統治したのです。こうしてヨーロッパからローマ帝国が消滅し、新たな支配者のもとで農奴となった人々の祖先の多くは、没落したローマの市民だったのです。

アメリカの焦りとほころびとは

さて、アメリカは戦後の覇者として世界に軍隊を送って自らの権益を守ろうとしてきました。その結果、アメリカの協力を受けた国々は豊かになりましたが、アメリカの中はというと、ローマ帝国と同様に格差が広がり、人々は不平等感に苛まれます。

ドナルド・トランプからみれば、他国から流れ込む移民は、ちょうどローマ帝国の辺境を脅かし、最終的にローマになだれ込んできたゲルマン人のように思えたのでしょう。パクス・ロマーナとパクス・アメリカーナとの共通点がみえてきます。

もちろん、2,000年前の人々の状況や意識と、現代社会とを同じ面で論じるのは危険ですし、誤った憶測の原因になるでしょう。

しかし、世界史から我々が学ぶことも多くあるはずです。

今、トランプ大統領は「国境を取り戻す」と宣言し、メキシコとの間に壁をつくろうとしています。同時に、アラブ系の移民や難民の流入を制限する政策に傾斜しようとしています。そこにみえてくるのはローマ帝国の衰亡と同様の、大国の劣化現象です。超大国という重みの中で年月をかけて制度が劣化し、肥大化した国家を維持する中で、社会の内部では格差や生活への不安が蔓延します。そんな苛立ちが強いアメリカをもう一度(Make America Great Again)というスローガンにつながったのです。

少なくともローマ帝国は、その矛盾を解決する妙案を見出せないままに、分裂し、崩壊していきました。

アメリカが今後どうなるのか。人類の長い歴史の教訓や方程式がそのまま当てはまるのか。そして、今回のトランプ大統領の極端な舵取りが、そうした衰亡の契機となるのか。いろいろな課題がローマ帝国の衰亡とアメリカの今とを重ねたときに見えてくるのです。


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