英語が世界共通言語として君臨し続ける3つの理由
各国の立ち位置の変化と世界共通語の行方
最近、世界の動きが読みにくくなっています。
特にヨーロッパの政情は混沌としています。
イギリスのEUからの離脱という激震の後、オランダやフランスの選挙では、右傾化の流れをなんとか食い止めることができましたが、今後EUが今まで通り安定した体制を維持できるかは不透明です。
EUはかじ取り役としてのドイツとフランスの連携がさらに求められるようになるはずです。
一方、一時は世界のGDPの半分を生み出していたアメリカの影響力が、21世紀になって陰り始めてきたことも考えなければなりません。
アメリカは以前のように世界の警察官としての強いリーダーシップをとれなくなっています。
20世紀の混乱を克服した中国の伸長が著しく、アメリカに次ぐ経済力によって存在感を誇示していることもその理由の一つです。そして、ロシアがソ連崩壊後25年を経て、再び強国として台頭してきたことも忘れてはなりません。
こうしたイギリスやアメリカという英語を母国語とする強国の立ち位置の変化をみるとき、今後も英語が世界の言語としての地位を維持できるのだろうかという疑問を抱く人もいるかもしれません。
世界の人々の共通言語として、いつまで英語は機能できるのでしょうか。
英語が世界の言語として君臨し続ける3つの理由
英語が世界を席巻した理由は3つあります。
最初の理由としては、19世紀に世界の工場として産業革命をリードし、各地域で植民地を経営していたイギリスの影響があげられます。
イギリスは、英語が世界中に流布する土台をつくったのです。
次に、アメリカの存在です。
20世紀、アメリカは世界最大の経済大国、そして軍事大国として君臨しました。
ヨーロッパが古い政治体制からの脱皮にもがき、二つの世界大戦で致命的な打撃を受けていたとき、アメリカは広大な土地と移民の活力で成長し、戦争に明け暮れる旧世界に対して世界最大の債権国となったのです。このことが、ビジネス上の共通言語としての英語の地位を盤石にしたことはいうまでもありません。
であれば、イギリスに次いでアメリカの地位までもが相対的に陰りつつある状況が、世界言語としての英語の地位に影響を与えるのではいう懸念も生まれます。
しかし、ここで3つ目の理由に注目する必要があります。
それは、英語が、ヨーロッパ系の多数の言語の終着点に位置しているということです。
それがゆえに、英語は今後も世界の共通語として進化するのではと思われるのです。
英語はヨーロッパ系言語の終着点である
詳しく語ってみます。
英語はもともと中部、そして北部ヨーロッパで活動していたゲルマン系の人々の言語にそのルーツがあります。ローマ時代の後期、ゲルマン人がヨーロッパ全土に移動したとき、イギリスにもアングル人、ジュート人、サクソン人といったゲルマン系の人々が住み着きました。5世紀頃のことです。彼らの言語が古英語と呼ばれ、いわば現在の英語のプラットフォームの役割を担ったのです。古代の英語のプラットフォームに、当時の文明国であるローマからラテン語の語彙が取り込まれます。そして、その後ノルマン人がフランスからイギリスに侵入すると、中世フランス語がさらに取り込まれてゆくのです。
実は11世紀には、イギリスでは上流階級の人々はフランス語を公用語としていました。それが、イギリスがフランスから自立し、独立国家として成長するにしたがって、英語がフランス語にとって変わるようになったのです。したがって、古くからの英語のプラットフォームには、ドイツ語などのゲルマン系の言語のみならず、ラテン語やフランス語の語彙も数多く取り入れられたのです。
つまり、英語はその成り立ちからして国際的な言語だったというわけです。
そして、ヨーロッパ各地の言語が流入し成熟した英語は、もともと他の言語よりも比較的シンプルな文法体系を持つ言語として成長したのです。
この3番目の理由こそが、英語が国際語として世界に受け入れられてきた隠れた原因なのです。
中国は、古代に東アジアを中国語という言語によって席巻しました。そして現在13億人以上の人々が中国語を話しています。それに対して、英語を母国語とする人は5億人前後なのです。
それでも、中国人が海外でコミュニケーションをするときには英語を使います。そしてそのことに中国人自身が違和感を感じていません。英語はイギリスやアメリカという国籍を超えて、世界の人が違和感なく使用できる唯一の言語となったのです。それは、19世紀から20世紀にイギリスとアメリカによって英語が世界に拡散したことに加え、英語が多国語を取り入れて造られたシンプルで柔軟な言語だったからなのです。
さいごに。変動する社会とともに言語も変化を続ける
最後に、今後イギリスやアメリカのような、軍事力だけではなく、経済力と指導力を駆使して世界でリーダーシップをとってゆく国家は当分現れそうにないことも特筆します。
英語は、世界が二つの世界大戦の教訓から、ナショナリズムと言語や文化を融合させ他国へ強要することを、世界の多くの人々が忌避するようになる前に、世界言語としての地位を確立したのです。
ですから、例えば今になって中国が覇権を唱え、中国語を拡散しようとしても、世界はそれを単なる大国のエゴとしか捉えないはずです。もちろん、フランス語やドイツ語が英語に変わることはありえないでしょう。
ただ、今後、英語はそれぞれの地域や文化の中で新しいスラングや表現を生み出し、多様に変化してゆくことは考えられます。
22世紀の共通語はおそらく英語でしょうが、表現方法にはいろいろな変化がみられるかもしれません。
言語は常に進化します。
しかし、その根幹としての英語のプラットフォームは今後も世界に共有されてゆくのではないでしょうか。
Photo:Vive La Palestina