ベーシックインカム制度と世界の「格差との戦いの歴史」

ベーシックインカム制度と世界の「格差との戦いの歴史」
9月 1, 2017 山久瀬洋二
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ベーシックインカム制度と世界の「格差との戦いの歴史」

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“Universal basic income is generated considerable interest these days, from Bernie Sanders, who says he is “absolutely sympathetic” to the idea, to Mark Zuckerberg, Facebook’s chief executive, and other tech billionaires.”
バーニー・サンダースがフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグや他の技術界の富裕者の打ち出した考えを強く支持し、万人に向けたベーシックインカムという考え方に大きな関心が集まっている-New York Timesより

世界中で注目の制度「ベーシックインカム」とは

昨年のアメリカの大統領選挙では、
「国がもっと国民の生活を向上させるために積極的に動くべきだ」と主張した民主党のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)候補が注目を集めました。

表題の記事のように、彼がフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)などと共に打ち出したのが、ベーシックインカム(Basic Income)という制度の導入でした。

さて、ベーシックインカムとは、
政府が全ての国民に平等に一定の資金を支給し、最低限の生活ができるようにする社会保障施策です。
根本的な格差を是正し、個人の自由と尊厳を守るために、国民から徴収した税金を差別感なく均等に振り分けようというのがベーシックインカムの考え方です。

社会格差をなくすことはできるのか

現在アメリカだけでなく、日本をはじめ、世界中で生活水準の格差(gap)の問題が討議されています。

「格差は個人の努力で是正される」という主張と、
「社会的に不利益を被った人々は格差の壁を乗り越えることは困難である」という主張とで、意見が対立しているのです。

格差を是正するには、税金の投入が必要です。
同時に国としての強力な制度の導入も必要です。
こうしたことから、格差を是正するために政策を実行することは、国が個人の自由を阻害し、国民の税金をばらまきに使うことになるのではという議論もアメリカなどでは根強くあります。

バーニー・サンダースの対極をいき、大統領となったドナルド・トランプはベーシックインカムをはじめとした政府による国民全体への均一なサービスには極めて否定的なのです。

日本でも、「定額給付金」や「子ども手当」の形で一時キャッシュを国民に支給したことがありました。しかし、根本的な格差是正には程遠く、選挙のためのばらまきという批判にさらされたのは記憶に新しいはずです。

貧しい家に生まれた子どもはさらに貧しくなる「貧困の連鎖」

そもそも、格差はどうして生まれるのでしょうか。
例えば、貧しい家庭では子供に十分な教育を受けさせることができません。そのため、貧しい家庭の子供は所得の良い職を得ることができないという悪循環「貧困の負の連鎖」が原因の1つとして挙げられます。

また、過去に差別を受けていた特定の人々が、その時期に経済的、教育的な基盤を作れなかったことからくる悪循環など、事例をあげればきりがありません。

災害や戦争などが人間の夢を砕いてしまう悲劇も忘れてはなりません。
家や職を失った人々は難民として他国へ移り住むことを望みます。
欧米の場合、難民を受け入れることが格差の原因を作っていると指摘する人も多くいます。
従って、そのような貧しい人々を受け入れるべきか、将来ある人材のみを受け入れるべきか、はたまた人道的に全ての難民を受け入れ、柔軟で強靱な社会を作ってゆくべきかで議論は分かれています。

これら全ての議論の上に、今「ベーシックインカム」という概念が問われるようになったのです。
ここで、このシステムを考える上で、過去に格差是正のためにとられた政策を振り返ってみます。

社会的不公正との戦いの歴史

まずご紹介したいのが、アファーマティブ・アクション(Affirmative Action)という制度です。

これは、もともと社会的に不利益を被っていた人々が公的な職場での採用などで優先されたり、会社等が積極的に雇用した場合に補助金が支給されたりする優遇制度を意味しています。

具体的な事例としては、アメリカのカリフォルニア州などでの、1960年代に公民権法が制定されるまで差別の対象となっていたアフリカ系アメリカ人への職場や教育施設での雇用への優遇措置があげられます。

マレーシアでは中国系の人々に比べ、マレー系の人々には経済的にハンディキャップがあるとして、教育機関への入学の優遇や会社経営をする場合、マレー人を必ず株主の一人にするなどといった制度があります。

しかし、こうしたアファーマティブ・アクションを逆差別だとして抗議する人がいることも事実です。

アファーマティブ・アクションとはまた別に、
北欧などの一部の国では、犯罪者が犯罪に走る原因となる社会的な不公正を考え、罪を犯し収監された者に恵まれた環境でしっかりと教育などの機会を与え、人間としての尊厳を取り戻す扶助をしようという試みも実施されています。

アファーマティブ・アクションにせよ、ベーシックインカム制度にせよ、こうした制度を導入するには、生活保護や失業保険などの福祉政策とは全く異なる視点での検討が必要です。

つまり、これは恵まれない人への補助ではなく、国民全体の生活レベルと安心を保証する国家の基本的な制度なのです。

2016年にスイスでこの制度を導入するか国民投票が行われましたが、大差で否決されました。

オランダやフィンランド、そしてカナダなどでもこの制度の導入を検討してはいますが、未だに成功した事例はありません。

解決すべき最大の難問「社会全体の意識」

ベーシックインカムの実施には課題が山ほどあります。
ベーシックインカムに向けた財源はどうするのでしょうか。
また、生活保護や失業保険などの福祉政策、年金制度などとの整合性をどのように位置付けるのでしょうか。
さらに、富裕層とそうでない国民との不公平感をいかに是正すればいいのでしょうか。
国の財政難に拍車をかけることにはならないのでしょうか。
さらに、AIなどの進化で失われる職業による失業者の救済にこの制度が適しているかどうかという実験も必要となりそうです。

ベーシックインカムはすべての人が対象となることで、逆に不公平感を是正しようという画期的な発想でもあります。

しかし、この制度の導入には、国民が「格差」をどのように捉え、恵まれない境遇にある人への深い洞察と同情を共有できるかという課題を克服しなければなりません。

格差が個人ではなく社会全体の課題であるという意識への支持も必要です。
成熟し円熟した大人の社会によってこの制度が受け入れられるかどうか。

制度の導入にはこれから数十年の粘り強い試行錯誤が求められるのかもしれません。

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