Multiple citizenshipの洗礼を受けるアメリカ社会【トランプ政権批判のワケ】

Multiple citizenshipの洗礼を受けるアメリカ社会【トランプ政権批判のワケ】
2月 20, 2017 admin

Multiple citizenshipの洗礼を受けるアメリカ社会【トランプ政権批判のワケ】

夢を抱いて、いざ新大陸へ

英語を学ぶ人、グローバルに活動したい人は、少なくとも20世紀以降超大国として世界をリードしたアメリカについての知識を持つことが必要です。

よくアメリカは移民の国と言われます。しかし、ただアメリカは人種の坩堝(melting pot)で、そこでの多様性(diversity)こそがアメリカのアイデンティティだとして片付ければ、大きな誤解を導きます。ではアメリカのアイデンティティとは何でしょうか。

まず、19世紀以前のことを考えます。飛行機も、高速で航行する船もなかった当時、海を渡ってアメリカにやってくるには、生まれ故郷と訣別する覚悟が必要でした。新大陸に着いた以上、好むと好まざるとに関わらず、過去を切り捨てて、そこで生活を切り開かなければならかったのです。

従って、人々はアメリカ人になること、つまり独立戦争以来アメリカが掲げてきた理念を見つめ、生活の基盤を造ってゆくことに尽力しました。その象徴が星条旗であり、ニューヨーク湾にあって海を渡ってきた人々を見つめてきた自由の女神だったのです。

少なくとも、アメリカに来れば、宗教的な迫害や身分の差による苦役に見舞われることなく、自分の生活を自分の意思でコントロールできました。もちろん、そこは腕力と才覚次第の厳しい競争社会で、人種同士の対立や騒乱に見舞われることもありました。良きにしろ悪しきにしろ、そこは個人の運と意思以外に頼ることができない世界でした。それがアメリカの「自由」だったのです。

そんな「自由」を保障していた制度はといえば、そのルーツはイギリスの議会制度にありました。17世紀にイギリスは2度の革命を経験しています。清教徒革命と名誉革命です。この2つの革命を通して、それまでの王が絶対的な権力を行使していた政治制度を改革し、市民が運営する議会と、議会が選ぶ内閣が国をリードするようになりました。

アメリカでは、イギリスで培われた民主主義のビジョンを、新大陸の実情に合わせて深化させたのです。まず、個々の移民が、それぞれの事情やニーズによって入植した経緯から、それぞれの地域の自治を最大限に尊重し、それを統一する連邦政府は国家として必要最小限の権限を持つように、分権主義の道を追いかけます。その上で、国家が分断されないように、アメリカ人としての意識の象徴として星条旗があり、そのビジョンをリードする人格として大統領が選出されたのです。

ですから、アメリカ人は、我々が思う以上に国旗に愛着を持っています。そして、大統領の演説を聞きながら、自らのアイデンティティを確認します。

 技術革新が生んだゆとり移民

ところが、20世紀も後半になって交通と通信が発達すると、アメリカにもう一つの移民グループが押し寄せます。新移民(new immigrant)と呼ばれる人々です。彼らにも以前の移民と同様に、アメリカにやってくるには経済的な理由や政治的な動機がありました。しかし、大きな違いは、多くの人々が故国を捨てる必要がないということです。輸送手段の進化によって、故国の風俗習慣をそのまま維持することも可能で、極端にいうなら英語が話せなくてもアメリカで生活してゆくことができるようになったのです。

こうして、アメリカ社会には故国とアメリカとの二つのアイデンティティの間を振り子のように往復する人々が多数を占めるようになったのです。

この振り子がぶれたときに、人種的な偏見などが原因で社会的な分断や確執が発生し、その結果アメリカにいながら、反アメリカを自らの動機にする人も現れました。その極端な作用と反作用がテロリズムなどにもつながっていったのです。

表題にある、多国籍(multiple citizenship)の概念はあくまでも法的なものですが、例えアメリカに帰化したとしても、精神的に多国籍のままアメリカに住む人々の洗礼を、アメリカ社会が受けているのです。

 トランプ政権。引いたカードはAか2か。

今、アメリカ人は従来のアメリカのビジョンを、こうした新しい社会にどのように適応させるかというテーマの中で戸惑い、苦しんでいるのです。これが、80年代以降、アメリカで繰り返し語られてきた「多様性」をどう受け入れるかという課題なのです。

アメリカは移民国家であれば、多様性はアメリカの大切な遺伝子です。しかし、その遺伝子は、もともとのアメリカのビジョンとのシナジー(synergy)があってこそ進化できるのです。このシナジーの創造があまりにも多難であるために、途切れることなく流入する移民によって変わる社会の中で、アメリカが消化不良を起こしているのです。

そんな消化不良による不快感を速攻で解決しようと、トランプ政権が誕生しました。しかし、多くの人は、まさに消化不良を市販の胃薬を乱用するように改善することができるのか疑問に思い、危険なチャレンジだと思います。それが、トランプの政策に反対する人々の動機となっているのです。本来のアメリカのビジョンを見直すことと、トランプ大統領の唱える「アメリカ・ファースト」という政策の間にある違和感が、アメリカ社会を混乱に陥れているのです。

50年代に活躍したエリアカザンという監督の映画に「アメリカ、アメリカ」という名画があります。そこに描かれている古典的な移民の物語をみるとき、その映画の主人公と同様の経験をしてきた人々とその子孫が、星条旗を理想とするアメリカのビジョンを創ってきた人々であることがわかります。

そんなノスタルジックなアメリカから、新しいアメリカにどう脱皮できるのか。アメリカ社会は左右に揺れながら、その試練の中でもがいているのです。


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