「使える英語」が身につく教え方・学び方:布村奈緒子

全国から見学者が殺到する両国高校の授業。そこでは、生徒たちが臆することなくペラペラと英語を話し続けています。その両国高校の英語教育の立役者の一人が布村奈緒子先生です。

効果的に「使える英語」を身につけるために必要なのはどんなことなのか、都立両国高校の「英語で伝え合う授業」を例に、ご紹介していきましょう。

撮影:松谷靖之

辞書なしで理解するために必要な「推測する力」

私の授業では、わからない単語が出てきても辞書を引く生徒の姿は見られません。みんなが会話をしながら授業を進めているので、「えーっと、何て言っているのかな……(パラパラ)」なんてやっている暇はないから。それでも生徒たちは、何となく「こんなことを言ってるのかな?」と推測しながら話を聞いています。

この「推測する」ということが「使える英語」にはとても重要。授業でもその仕掛けをいろいろなところに施しています。

まず、「英語で伝え合う授業」では、教科書のエッセイなどを教材にするときも、最初の授業では教科書を見ません。ではどうするかというと、たとえばネルソン・マンデラ氏についてのエッセイだった場合、彼の写真を見せて、

「What do you know about him? Tell me anything.(彼について知っていることは? 何でもいいから教えて)」

と生徒たちに問いかけます。すると、

「He is a black man.(黒人男性です)」

という見た通りのことから、

「I know his name is Nelson Mandela.(知ってる、ネルソン・マンデラだよ)」

「He was the first black President of South Africa, I think.(南アフリカの最初の黒人大統領だったと思う)」

「He was against apartheid.(アパルトヘイトに反対した)」

などといった具合に、どんどん手をあげて答えてくれます(私の授業は、最初に全員立ち上がり、答えた人から座れるという「授業に参加したほうがお得」なシステムということもあり、恥ずかしがり屋さんでも手をあげて答えてくれます)。

40人もの生徒がいると、中には、

「The 1995 Rugby World Cup was held in South Africa. He promoted it.(1995年のラグビーワールドカップは南アフリカで開催されて、彼はそれを支援したんだ)」

なんてことを言う子も出てきます(ちょうどラグビー日本代表が南アフリカ共和国に歴史的勝利をあげたときでもありました)。

そこですかさず、ラグビー南アフリカ代表チームの写真を、戦前・戦後・現在と3つの時代ごとに見せて、

「What do you notice about these photos?(この写真を見て気づいたことは?)」

と聞くと、

「There were only white men before World WarⅡ.(第2次世界大戦前は白人しかいなかったんだ)」

「Black players have been increasing.(黒人選手が増えている)」

などの答えが返ってくるわけです。

こんなふうに、ネルソン・マンデラ氏やその周辺情報をブレインストーミング的にどんどん出していき、それをみんなで共有します。自分1人ではカバーできなかった情報も、友人の発言から知ることができるのですが、この「教科書ではなく、友人の発言から知る」というのも大事なポイントだったりします。

身近な人の言葉を介すことで、「あんなことを知ってるなんて、彼女は見かけによらないな」とか「ああ、彼はラグビー部だったな」といった具合に、その情報がインプットされるときの記憶のフックが増え、そのとき使った言葉を忘れにくくなるからです(気になる異性が言ったことは、どうでもいいことでもよく覚えていたりしますよね)。

とにかく、こういう作業をすることで、「これから読む教材はネルソン・マンデラ氏が登場して、いま出てきたようなことやそれに関係することが書かれているんだな」と推測することができるわけです。そうして教材の英文を読むと、いきなり読むよりも内容を推測しやすくなり、読むスピードも速くなるのです。

両国メソッドを公開した布村先生の新刊

ここで、生徒たちは辞書を引かずに理解するための3つのことを、無意識のうちに行っています。

1つめは、写真などの視覚的情報から推測すること。

2つめは、周囲の人から情報を得て推測すること。

3つめは、自分自身の知識を増やすこと。

これは、英語に触れるあらゆる場面で有効な方法です。

英語で新聞や雑誌などを読むときも、写真やイラストを見て内容を推測しているはずです。家族や友人などが近くにいれば、「○○って、だれだったっけ」とたずねることもあるでしょう。また、知識が豊富になればなるほど、「ああ、きっとあのことを言っているのだな」と内容を推測しやすくなるので、読むスピードが速くなります。

だれかと伝え合うことで英語は伸びる

ブレインストーミングをしたあとは、実際に教材を読んでいくのですが、ここでも教科書はまだ登場しません。

では、どうやって読むかというと、4人1組のグループを作り、あらかじめA・B・C・Dと4つのパートに分けて教室の四隅に貼りつけられたエッセイを、1人1箇所ずつ読みに行くのです。

Aの担当者はAの英文の貼られたコーナーへ、Bの担当者はBのコーナーへ、Cの担当者はCのコーナーへ……と手ぶらで行き、書かれていることを読み取ったら、グループの机に帰ってきてメモをとります。

その後Aの担当者から順番に、自分のコーナーに何が書かれていたのかをメンバーに伝えます。残りの3人は担当者の話を聞きながらメモをとります。

これをDまで行うことで、全体として何が書かれていたのかをみんなで共有する、という作業を行います。この活動を「4コーナーズ」と呼んでいます。

自分1人なら、わからなくても困るのは自分だけ。でも、自分がわからないとみんなが困るという状況では、みんな必死になって読み取ろう、伝えようとするものです。「みんなに伝えなくては」という必要性から、「動機づけ」のスイッチが入るのです。

 端的に説明する力、ほめる力……会話の基礎が身につく

ここで覚えておきたいのが、メインポイントを読み取るというコツ。

4分割してあるとはいえ、それなりの長さがある文章ですから、すべてを覚えるの

は伝えるほうも聞くほうも大変。ですから、「この部分の大事なことは何かな?」と考えながら読むこと、そして、「要は、こういうこと」と簡潔に伝えること、これが大事なことです(134ページ)。

読み取りに苦労している生徒には、私やALTが、

「What’s the main point?(メインポイントは何かな?)」

と問いかけて、1文だけでも抜き出せるように助け舟を出すこともあります。

2時間目には、このエッセイについてもう少し細かく読む作業をします。隣同士の

席でペアになり、そのエッセイについてのQ&Aが書かれた紙を使って、お互いに質

問し合い、問われていることをエッセイの中から抜き出すのです。たとえば、

「When did he become the first black president of South Africa?(彼はいつ南アフリカ初

の黒人大統領になったのか?)」

と1人が質問し、もう1人は文中から該当する箇所を探して答える、という具合です。

これは、スキャニングという必要な情報を拾い読みする作業。資料から自分が知りたいことだけをピックアップする力が磨かれるので、大量の文献にあたるアメリカの大学の授業や、膨大な英文の資料を読むような仕事にも活かせる力がつきます(135ページ)。

Q&Aを行うときは、ペアの相手に対する反応も大切です。

たとえば、答えが合っていたときは、

「Excellent!(いいね!)」

「Fantastic!(すばらしい!)」

と思いきりほめること。間違っているときでも、

「That’s not right.(違います)」

と言うよりは、

「Not quite.(ちょっと違うかなあ……)」

「Close.(近いけど……)」

「Almost!(おしい!)」

などの表現を使うようにします。相手をほめたり、ヒントを与えたり、励ましたりしながら答えを引き出すように努めます。

ほめられればだれでもうれしいし、間違っても傷つかないような気遣いがあれば、何度でもトライできます。

 「4ロールズ英会話」で会話のコツを確認

内容を確認し合うことで読解を終えたら、次は4人1組になってディスカッションです。初めの授業の「4コーナーズ」のときもそうですが、ここでは一人ひとりに役割(role)があるので、「4ロールズ英会話」と呼びます。以下、4つの役割を紹介しましょう。

 ・ディスカッションリーダー

ディスカッションでは「 What should we do for world peace?(世界平和のために何をすべきだろう?)」などとテーマを投げかけ、「4コーナーズ」では「 What’s the main point?(何がメインポイント?)」と聞く、会話の口火を切ったり場をまとめたりする役。

・スピーカー

ディスカッションリーダーの投げかけに応じて「We should…(私たちは …すべき)」と意見を言う役。「4コーナーズ」では「こんなことが書いてあった」「メインポイントは……」とみんなに説明する役。

・リスナー(*授業によっては、ノートテイカー〈=メモを取る役目〉にも)

スピーカーの話の聞き役。相手の話した言葉をリピートしたり「Did you say… (…って言った?)」「You mean…(…ってこと?)」と確認したり、「Why?(なぜ?)」「For example?(たとえば?)」と話題を具体的にして深めたりする役。

・リアクションメーカー

スピーカーの話に対して、「 Wow!(わあ!)」「I see.(なるほど)」「I agree with you.(同感です)」「That’s terrible!(それはおそろしい!)」などとリアクションをして、相手の話の先を促す役。

このように、4人がそれぞれの役割を意識しながら話を引き出したり深めたりしていきます。日本語では無意識のうちにやっていることですが、それを明確にすることで、スムーズに英会話を進めることができるようになります。

こうしたコミュニケーションの基本も英語を学びながら身につける、これが「英語で伝え合う授業」です。


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