イランでのロハニー大統領再選が浮き彫りにした、全世界に広がる世論の共通点とアメリカの外交戦略

イランでのロハニー大統領再選が浮き彫りにした、全世界に広がる世論の共通点とアメリカの外交戦略
5月 26, 2017 山久瀬洋二
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イランでのロハニー大統領再選が浮き彫りにした、全世界に広がる世論の共通点とアメリカの外交戦略

Rouhani on pace to win re-election in Iran.
イランでロハニー氏が順調に再選される
New York Timesより

移民パワーを知らずしてアメリカは語れない

アメリカの世界戦略を理解することは、英語を学ぶ人にとって、海外の人との話題についてゆく上でも大切なことです。

今回はイランでの大統領選挙のニュースを例にとって、解説をしてみましょう。

そもそも、なぜイランの選挙がアメリカの外交戦略に関係するのかと思う人も多いかもしれません。その答えは、アメリカという国の成り立ちを振り返ればわかってきます。

アメリカの外交を考えるとき参考にしたいのが、アメリカが移民国家であるという実情なのです。
 
今まで世界で騒乱がおきると、そうした地域からアメリカに移民が流入してきました。
例えば、1959年にキューバで共産革命がおきると、それを嫌った人々が大量にアメリカに流れ込みました。
ベトナム戦争が終結し、当時の北ベトナムが南ベトナムを占領すると、多くの人がアメリカで新たな生活にチャレンジしました。

そして、1979年にイランで革命がおきたときも、同様に大量の人々がアメリカに移住したのです。

彼らに共通していることは、革命で倒された政権が元々アメリカの支援を受けていたことでした。
イランの場合、革命以前はパーレビ国王が統治する王国で、アメリカはソ連への防波堤として軍事的にも経済的にも国王を支援していたのです。
そうした中で、アメリカの影響を嫌い、イスラム教の伝統に基づく国家建設をスローガンに、民衆が蜂起したのがイラン革命でした。

キューバにしろ、当時の北ベトナムにしろ、そしてイランにしろ、政変の後アメリカはそうした国々と国交を断絶し、経済的な制裁を加えてきました。

アメリカに移民してきた人々は、政変で祖国を追い出された人々なので、アメリカの動きに同調します。
彼らはアメリカで市民権を獲得し、有権者としてアメリカの政治にも影響を与えるようになってゆきます。

アメリカが複雑な外交戦略を遂行するとき、そうした移民の有権者、そして、元々は移民であった専門家の影響が常に介在しています。

今、西海岸などを中心に47万人以上のイラン系アメリカ人が住んでいます。
彼らの多くは、現在のイラン・イスラム共和国を否定し、自らのことをイランの伝統的な国名であるペルシアの人Persianであると主張します。

そして今回イランで大統領選挙があり、現職のロハニー氏(Hassan Rowhani)が大差で再選されました。イランを逃れ、アメリカに移民してきた人は、ロハニー氏の再選をイランの国際化の証として歓迎しているはずです。

もっとも、イランの場合は、大統領といえども、宗教的な最高指導者であるハメネイ師(Ali Khamenei)の権限を超えることはできません。
しかし、ロハニー大統領が保守派の候補者を抑えて大差で再選されたことは、今までのイスラム至上主義政策にも、少なからぬ影響がでてくるはずです。

トランプ大統領の揺れ動く思惑

ところで、この穏健派で西欧諸国と融和政策を進めてきた大統領がイランで再選されているまさにその時、アメリカのドナルド・トランプ大統領はイランの隣国サウジアラビアを訪問していたことも忘れてはなりません。

トランプ大統領が、イスラム諸国からの入国制限を強行しようしたことはまだ記憶に新しいはずです。
その中には、イラン国民も含まれていました。オバマ前大統領のときに、両国は関係改善の道を模索していただけに、この決定は世界に大きな衝撃を与えました。

ところが、今回サウジアラビアでトランプ大統領は、過去のイスラム教への敵意を露わにしたかのような発言を大きく変更しました。

イスラム教とイスラム過激派とをはっきり分けて、イスラム社会にも敬意を表し、サウジアラビアや湾岸諸国との友好関係も強調したのです。

大統領に就任し、複雑な国際関係のあらましを知るに従って、トランプ大統領の従来の強硬姿勢にブレーキがかかりつつあります。

アメリカのイラン系の移民、さらには300万人以上といわれるイスラム教系のアメリカ人の存在を、トランプ大統領は意識したのかもしれません。関連記事▷トランプ大統領と行くサウジ他9日間の旅 & 海外メディアが報じた眞子さまご婚約 -英語ニュース ピック-5.22

ロハニー大統領は、今後さらにイランと西欧諸国との関係正常化を模索してくるはずです。
ちなみに、トランプ大統領が訪問したサウジアラビアは、イスラム教の中でもスンニ派が主流となっている国家です。それに対してイラン人の大多数はシーア派です。この二つの国家は、常にイスラム圏では対立項におかれていたのです。
一筋縄ではいかないのが外交戦略というわけです。

さいごに

最後に、オランダやフランスの大統領選挙でポピュリズムに乗った右傾化(※)に待ったがかかったことと、今回のイランでのロハニー大統領の再選劇には共通した世論の動きが見られることも強調しておきましょう。

それは右傾化(※)し世界から孤立してゆくことに対する警戒感です。
※右傾化:軍国主義的な方向に傾くこと。自国第一であり、理想を武力行使で達成する方向へ傾くこと。

右傾化にストップがかかることは、特に祖国との絆の深いアメリカの移民一世にとってはありがたいことのはずです。

そして今、トランプ大統領は支持率の低下に悩んでいます。
複雑な政治経済環境の中で、なかなか公約が実施できないことと、彼自身にかけられたロシアとの癒着などの嫌疑への国民の戸惑いが支持率低下の背景にあるのです。

再選されたロハニー大統領が、アメリカに亡命した人々も視野にいれながら、トランプ大統領にどんなボールを投げてくるか。今後の動向が気になるところです。

(イランの方々の写真でちょくちょく見るピースも気になります)




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