世界よどこへ。G20解説-揺らぐトランプ政権とロシア、中国との冷戦

世界よどこへ。G20解説-揺らぐトランプ政権とロシア、中国との冷戦
7月 18, 2017 山久瀬洋二
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世界よどこへ。G20解説-揺らぐトランプ政権とロシア、中国との冷戦

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It was a signal that Trump has become comfortable in his role as a global agitator — even as fellow leaders openly lament his moves on climate and trade.

他のリーダーが環境や貿易での動きに懸念を隠さないなか、トランプはグローバルアジテータ※としての自ら役割に馴染んできているのかもしれない。
CNNより
※agitator スピーチや行動でイデオロギーや活動を積極的にサポートする人

https://twitter.com/HollyNiotti/status/883320238204387329

G20 2017 in Hamburg を終えて

今年のG20はともかく騒々しくも精彩を欠いたG20でした。
ヨーロッパがアメリカでのトランプ大統領誕生に続く重要な選挙を経て、一定の安定感をみせるなか、G20で目立ったのが、やはりトランプ政権の不安定さだったのではないでしょうか。

CNN に掲載されたG20の現地取材記事をご紹介します。

Trump settles into role of global agitator

Story highlights“Trump received a warm welcome at his first stop, Warsaw, and then protests in Hamburg”
トランプ氏はワルシャワでは歓迎を受けたが、次のハンブルグでは抗議を受けた。

“Trump was more comfortable around world leaders at the summit than at European meetings earlier this year”
トランプ氏は今年の初めに行われたヨーロッパでの会議よりも、世界のリーダーたちに囲まれるサミットの方が居心地が良かった。

“The White House failed to get its version of the Putin meeting out before the Russians”
ホワイトハウスは、ロシア人より先にプーチン大統領の様子を発表することに失敗した。

外交とは北朝鮮問題すら一手段にすぎない

G7にしろ、G20にしろ、世界のリーダーが集まる会議で常に注目しなければならないことは、世界情勢そのものを鳥瞰する姿勢です。

例えば、北朝鮮問題を考えるとき、日本は隣国だけに、その脅威に対して過敏なまでに反応します。
これは、日中関係でも、日露関係でもいえることで、我々はどうしても日本から相手をみるスタンスを捨てられません。

しかし、世界的に北朝鮮問題を捉えれば、その扱いは変わってきます。
北朝鮮問題は、米中関係での外交問題の一断面なのです。

現在、アメリカと中国とは冷戦関係にあります。また、アメリカとロシアも同様です。この3大強国での駆け引きの中で、北朝鮮問題や中東問題が左右されていることを忘れてはなりません。

1960年代、アメリカとソ連とが冷戦の中で激しく対立していた頃、ベトナムでは国が分断され、戦闘が激化していました。

それは中東でも同様でした。
各地域での戦争は、冷戦関係での外交上の駆け引きに常に利用されてきたのです。

現在、中東がISISという過去にないテロリズムの危機にさらされている中、北朝鮮問題ではなんとかバランスを維持し、冷戦状態のまま、中国やロシアとの外交交渉で危機を切り抜けようというわけです。

では、そのアメリカと中国との関係は、さらにアメリカとロシアとの関係はどうなっているのでしょう。

まず、トランプ大統領は自らが選ばれた大統領選挙において、ロシアと繋がってクリントン候補の選挙運動を妨害していたのではという深刻な疑惑にさらされています。G20でのプーチン大統領との会談でも、ロシアはその疑惑を否定し、トランプ氏もその否定を歓迎することにエネルギーが費やされました。

PHOTOS: Trump & Putin Handshake, Meeting in Hamburg at G20

対中政策についていえば、トランプ大統領は就任当初は貿易摩擦や東アジアでの中国の進出に対して強く反発していました。

しかし、今では中国との対話路線に政策がシフトしているかのように見えてきます。北朝鮮問題でも中国の対応に期待しながら様子をみてゆくという歯切れの悪ささえ伺えます。

G20は複数の利害が交錯する国家のリーダーが集まる会議です。
華やかなパーティー場であると同時に、その裏での駆け引きと妥協によって国際バランスを維持する会合です。

トランプ大統領は歴代の大統領の中でも、特に「アメリカ第一主義」を全面に押し出し、低賃金と求職に悩む国民が支持して当選した大統領です。いわば、アメリカをアメリカ人の力で立て直そうという単純なメッセージによって選ばれた大統領です。

そんなスタンドプレーを行ってきた彼が、実際に職についてみると、世界の複雑なネットワークと相互依存の中で、どうしても妥協を強いられます。

大統領となってアメリカのリーダーとしてどのように舵をとるか学べば学ぶほど、自らが思っていたのとは異なる様々な世界のからくりにさらされます。

その不消化が、対中、対露、さらには対EUなどといったプロフェッショナリズムが要求される外交舞台であらわになるのです。
どうも、彼の掲げた「アメリカ第一主義」と現実の国際政治に要求される知識と洞察力とのギャップは、彼の政権基盤そのものを脅かしているように思えます。

トランプ政権自体が、その矛盾の中で内部対立や衝突に揺れているのではないでしょうか。

そんな不安定さが、G20で中国と台湾との表記を取り違えたり、安倍首相を大統領と呼んだりといった、アメリカ政府のお粗末なミスの背景にも見え隠れします。

国際舞台をうまく泳ぐことにかけては大先輩のロシアのプーチン大統領や、ヨーロッパの首脳に囲まれ、うまく操られないようにするにはどうすればよいか。同時に自らを支持してきた保守層をどう満足させてゆけばいいのか。

この二つの課題は、そもそも矛盾とジレンマを含んでいます。加えて、ロシアがらみのスキャンダルがうるさいハエのようにトランプ大統領の耳元を飛び回ります。

今回のG20は、経済問題では保護主義をいかに克服するかというテーマの中、TPPから離脱し、地球環境を改善させようとするパリ協定からも離脱したアメリカの動きが注目されました。
政治の上ではISISへの反撃が最終局面を迎え、北朝鮮が核武装を進める中で、中東と極東情勢を巡るアメリカと中国やロシアとの外交交渉にも注目が集まりました。

しかし、このいずれをとっても、アメリカは毅然とした世界のリーダーとしてのアメリカを印象付けることができませんでした。
そのためG20自体が、精彩を欠いた会合になってしまったという印象も否めません。

トランプ政権の基盤がゆらぎ、政策の歯切れが悪くなっている今、
日本もアメリカ依存の外交方針を本格的に見直さなければならない時期にきているのかもしれません。

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